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福岡地方裁判所 昭和25年(行)146号 判決

原告 山下規矩次

被告 福岡県農地委員会

一、主  文

東山村農地委員会が昭和二十三年九月十九日福岡県山門郡東山村大字大草字東屋敷一四七一番地の一宅地五二坪及び同番地の二宅地二八坪に就いて定めた買収計画並びに被告が昭和二十五年七月一日附為した原告の右買収計画に対する訴願棄却の裁決はいずれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、主文掲記の宅地は土地台帳上山門郡東山村大字大草字東屋敷一四七一番地宅地八十坪として表示される原告の所有土地であるところ、東山村農地委員会は、昭和二十三年九月十九日河野広市及び河野金蔵の申請により、自作農創設特別措置法第十五条の規定に基き右宅地を法律上の手続によらず、勝手に一四七一番地の一宅地五十二坪、同番地の二宅地二十八坪に分筆の上、これをそれぞれ買収する旨の計画を樹立した。然し右買収計画は後記の如く違法にして取消を免れないものである故、原告はその縦覧期間内に東山村農地委員会に対し適法に異議の申立を為したが棄却されたので更に同年十月二十五日被告に対し訴願を提起したが、これ又昭和二十五年七月一日附で棄却され、同年八月二十八日その旨の裁決書の謄本の交付を受けた。然しながら(一)土地の箇数はその自然的分界によらず専ら土地台帳上の分界線によつて定まるものであるところ、本件における如く一筆の土地を法律上の手続によらず、勝手に一四七一番地の一宅地五十二坪、同番地の二宅地二十八坪というように分筆しても、このような土地は法律上存在しないというべきであるから、本件買収計画はひつきよう法律上存在しない架空の土地に就いて定められたということになり、又その買収の範囲境界を確定し得ないという意味においても当然違法にして取消を免れないのである。(二)仮りに(一)の主張にして理由がないにしても、一四七一番地宅地八十坪は原告から河野房太郎に賃貸していたものであつて、その買収申請人である河野広市及び河野金蔵等はこれにつき賃借権は勿論、使用貸借に因る権利その他何等の権限をも有するものではない。従つてこのような無権限者の申請に基いて定められた本件買収計画の違法であることは当然である。(三)然も本件土地は河野広市及び河野金蔵等の農業経営上必ずしも必要とする宅地ではない。すなわち被告主張の一四七一番地の二宅地二十八坪は河野金蔵において鍛治場を建てこれをその職場に使用しており、又同じく一四七一番地の一宅地五十二坪は、河野広市において季節の野菜を栽培しこれを家庭菜園として使用しているのであつて、いずれもその農業経営のために必要な宅地として使用されている訳ではない。それでこのように必ずしも農業経営上必要としないような宅地に就き買収申請を為すことは不相当であり、従つてこのような申請に基いて定められた本件買収計画の違法であることも当然といわねばならない。(四)又本件土地はその位置環境からみて買収を相当とするものではないが故にこれに就き定められた買収計画はこの意味においても違法にして取消を免れないものである。以上の通り本件買収計画は違法であり、従つて斯る違法の計画を容認し原告の訴願を棄却した被告の裁決の違法であることも亦明であるから、ここに原告は右買収計画並びに訴願棄却の裁決の各取消を求めるため本訴請求に及んだと陳述し、被告の答弁事実を否認し、なお仮りに河野金蔵及び河野広市等が河野房太郎から本件土地を転借していたにしても、これは原告の承諾を得ない無断転借であるから、これを以て原告に対抗し得ないことは当然であるばかりでなく、原告は昭和二十三年十月二十七日無断転貸を理由に契約解除の意思表示を為しているのであるから、従つて河野広市、河野金蔵等に本件土地を使用収益し得べき正当の権限のないことは明であると附陳した。(証拠省略)

被告指定代理人はまず本訴中、原告の本件買収計画の取消を求める部分を却下するとの判決を求め、その理由として本件買収計画は原告の自陳する如く東山村農地委員会の定めたものであるから、その買収計画取消の訴は当然処分庁たる東山村農地委員会を被告として提起せらるべく、処分庁でない被告を相手方として右買収計画の取消を求めるということは明に被告を誤つたものといわねばならないと述べ、本案につき原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として、原告主張事実中山門郡東山村大字大草字東屋敷一四七一番地宅地八十坪が原告の所有であること、東山村農地委員会が河野広市及び河野金蔵の申請により昭和二十三年九月十九日右土地を一四七一番地の一宅地五十二坪同番地の二宅地二十八坪としてこれに買収計画を樹立したこと、原告が東山村農地委員会及び被告に対しそれぞれ異議又は訴願を提起したがいずれも棄却され、昭和二十五年八月二十八日その旨の裁決書の謄本の交付を受けたことはいずれもこれを認めるが、その余の事実はすべてこれを争う。本件買収計画に原告主張の如き違法の廉のないことは次に述べる通りであり、従つて又これを容認し原告の訴願を棄却した裁決にも何等のかしは存しない。すなわち(一)原告は本件買収計画は法律上存在しない架空の土地について為されたものであり、その範囲限界を確定し得ない違法がある旨主張するが、然し一筆の土地は、分筆手続を経た後でなければその一部の買収を為し得ないという理由はないのであつて、実際上一筆の土地の一部買収を相当とするときはその範囲限界を定めて便宜上これに仮の地番を設定しこの部分に就き買収計画を定めることはその範囲限界が確定し得る限り何等差支えがないものというべく、本件において一四七一番地の一宅地五十二坪という部分と同番地の二宅地二十八坪という部分とはそれぞれその範囲限界が確定されているのであるから、原告主張の如き、違法の廉はないものといわねばならぬ(この場合には買収処分が確定し登記手続を行う際、まず分筆訂正の手続を為した後、買収処分に因る登記手続を行うことになる。)(二)次に原告は本件買収計画は無権限者の申請に基いて定められた違法がある旨主張するが、然し一四七一番地の二宅地二十八坪の部分については河野金蔵が原告の手頭と呼ばれる今村伊勢松の承諾を得た上で賃借人の河野房太郎から久しき以前に転借したものであつて、今村伊勢松は原告所有土地の貸付け、引上げ、地代小作料の徴収等につき代理権を与えられていた者であるから、右転貸借は有効であり、従つて、本件買収計画が無権限者の申請に基いて定められたという主張は当らない。又河野広市は河野房太郎の長男で同人と世帯を同じくし、農業経営の主体となつてこれを主宰している者であるから、このような場合にはその農業経営の主宰者から買収の申請を為すことは何等差支えがないものと解すべきである。(三)又原告は本件土地は河地広市及び河野金蔵等の農業経営にとつて必ずしも必要な土地ではない旨主張するが、一四七一番地の二宅地二十八坪の部分は、河野金蔵が農業用収納小屋及び堆肥小屋の敷地或は籾干場として使用しているところの農業経営上必要な土地であり、又同番地の一宅地五十二坪の部分は同じく河野広市が農業用物置の敷地或は籾干場として使用している必要な土地であるからその買収申請は相当であり、従つてこれに基く本件買収計画には原告主張の如き何等違法の廉はないといわねばならぬ。(四)なお本件土地は農村部落の中に存在する宅地であつて、その位置環境上買収を不相当とするものとは認められない。以上の通り本件買収計画には原告主張の如き違法の廉はなく、従つて右計画を容認し、原告の訴願を棄却した被告の裁決も亦相当であつて何等のかしは存しないから、右計画及び裁決の取消を求める原告の本訴請求はいずれも理由なきものとして棄却を免れないと陳述した。(証拠省略)

三、理  由

まず職権を以て、訴願の裁決庁のみを被告とし、その裁決並びに原処分庁の為した処分の取消を合せ求めることが許されるか、否かの点について調べるに裁決も固より原処分とは別の独立した処分ではあるが、その裁決は原処分の適否、妥当性等について示される裁決庁の判断であつて、原処分と全く無関係に存するものではなく、裁決の適法性を維持するが為には勢い原処分の適法性を問題にしなければならないし、原処分に何等か違法のかしが存するならば、その裁決も亦必然的に違法性を帯びることにならざるを得ないのであるから論理的に裁決は原処分をその内容としてこれと不可分一体の関係に結び附くところの一つの処分であるということができる。然も原処分庁というも、裁決庁というも結局は同一人格たる国の行政権を担荷する機関であつていずれの場合においても実質上の当事者は国であり、行政庁を被告とするということは単に訴訟の形式上の問題に過ぎないと考えられるから、上級機関たる裁決庁のみを被告としその裁決並びに原処分庁の為した原処分の取消を合せ求めることは行政事件訴訟特例法第三条の「いわゆる抗告訴訟は処分をした行政庁を被告として提起しなければならない」旨の規定の趣旨には別段牴触するところがないと解するを相当とする。本件においても右と同趣旨に解すべきであつて、訴願の裁決庁たる被告のみを相手方とし、その裁決の取消を求めると共に東山村農地委員会の定めた本件買収計画の取消を求めることは何等差支えがないといわねばならぬ。以上の理由によりこれを違法として訴却下の判決を求める被告の主張は採用しない。

仍て本案につき調べるに山門郡東山村大字大草字東屋敷一四七一番地宅地八十坪が原告の所有であること、東山村農地委員会が河野広市及び河野金蔵の申請に基き、昭和二十三年九月十九日右土地を一四七一番地の一宅地五十二坪、同番地の二宅地二十八坪としてこれを買収する旨の計画を定めたこと及び原告が東山村農地委員会及び被告に対しそれぞれ異議又は訴願を提起したが、いずれも棄却され、昭和二十五年八月二十八日その旨の裁決書の謄本の交付を受けたことは当事者の間に争がない。(一)ところで原告は本件買収計画は法律上存在しない架空の土地について為されたものである旨主張するので考えるに、なるほど土地の個数は、その自然的分界によらず専ら土地台帳上の分界によつて定まるものではあるが、然し一筆の土地の一部の所有権移転も可能であれば、又一筆の土地の一部について地上権や抵当権を設定することも可能であつて一筆の土地の一部をも権利の目的と為すことができる訳であるから、法律上の分筆手続を経た後でなければ一筆の土地の一部買収を為し得ないという理由はなく、実際上一筆の土地の一部買収を相当とするときはその範囲限界を定め、これに就き買収計画を定め得ることは正に当然のことといわねばならぬ。本件において一筆の土地を一四七一番地の一宅地五十二坪、同番地の二宅地二十八坪というように区分しているのはそれぞれ一筆の土地の一部を表示するための便宜上の措置とみるべきであつて、然も検証の結果によればその範囲限界も明確にされているのであるから本件買収計画にはこの点につき別に原告主張の如き違法の廉はないというべきである。(二)次に原告は河野広市及び河野金蔵等にはいずれも本件土地を使用収益し得る正当な権限がない旨主張する。よつてまず本件買収計画中一四七一番地の二宅地二十八坪の部分について調べるに被告は右土地は河野金蔵が同人と賃借人たる河野房太郎との間の転貸借契約に基いて使用しているものであり、右転貸借に当つては原告所有土地の貸付け、引上げ等につき代理権を与えられていたところの手頭と呼ばれる今村伊勢松の承諾を得ているから、右転貸借は有効であつた旨主張するのであるが、今村伊勢松に右の如き代理権の存した事実はこれを確認するに足る証拠がなく、却つて証人河口淳三郎、担巳崎、新開耕一、梅野茂芳の各証言に原告本人尋問の結果を綜合すると、手頭にはこのような権限のなかつたことが認められるので仮りに前記土地が今村伊勢松の承諾を得て転借されていたにしても矢張りこれは所有者たる原告の承諾を得ない無断転借というの外はなく、これを以て原告には対抗し得ないものであるから、前記買収計画は結局無断転借人の申請に基いて定められたものというべきのみならず、後記の通り該土地は河野金蔵の農業経営にとつてその買収を相当とする程の必要性があるとも認め難い。次に一四七一番地の一宅地五十二坪の部分について考えるに右土地の貸借人が河野房太郎であつて、その買収申請を為した河野広市でないことは当事者間に明に争のないところであるが、然し、自作農創設特別措置法第十五条に、「自作農となるべきもの」とあるのは必ずしも農地の売渡を受けた耕作者個人のみを意味すると解すべきはなく、同法が農業経営の特殊性すなわち農業経営が農家のすべての稼働力を有機的に綜合したところの家団的経営であるという実情にかんがみ、ものを世帯中心に考えようとしている趣旨(このことは自作地、小作地を区別する標準につき、或は自作が適正であるか否かを定めるにつき、或は保有農地の面積計算につき、或は農地賃貸借の解除解約を許可する場合の標準等幾多の場合に窺うことができる。)に徴するならばこれは農地の売渡を受けた耕作者個人を含む農家世帯中心としてのそれを意味すると解するを相当とすべきところ、証人河野広市、河野房太郎の各証言に弁論の全趣旨を綜合すると、河野広市は河野房太郎の長男で、同人と世帯を同じくし昭和二十一年房太郎が隠居をした後はその農業経営の主体となつてこれを主宰し前記宅地をも管理していることが認められるからこのような場合にその農業経営の主体から買収の申請を為すことは別段違法でないと認むるを相当とする。(三)それで次に本件土地がそれぞれ河野広市及び河野金蔵の農業経営にとり、どのような関係にあるかの点について調べるに、被告は一四七一番地の一宅地五十二坪の部分は河野広市が農業用物置の敷地或は籾干場として使用するにつき、又同番地の二宅地二十八坪の部分は河野金蔵が農業用収納小屋及び堆肥小屋の敷地或は籾干場として使用せるにつき、いずれも必要な宅地である旨主張するのであるが、それぞれ右に添う証人河野房太郎、河野広市、河野金蔵等の各証言は後記証拠に比照して措信し難く、却つて成立に争のない甲第七号証、検証の結果、証人山下嵩の証言に弁論の全趣旨を綜合すると、河野広市及び河野金蔵はいずれも他に宅地建物を所有していて、一四七一番地の一宅地五十二坪の部分はその北側の約半分が時には秋の籾干場として使用されることがあるけれども全体として日当りが悪いので一年を通じ殆ど季節の野菜を栽培する家庭菜園として利用されており、又一四七一番地の二宅地二十八坪の部分はその南側に約四坪位の半壊した堆肥小屋が建てられているけれどもその西側には鍛治小屋(被告は農業用収納小屋であると主張するが、検証の結果によれば立派な鍛治小屋であり、農機具も格納されておらず過去において農産物を収納した形跡も認められない。)が建てられ、その余の部分も一年を通じ殆ど家庭菜園として利用されている事実を認めることができ他に右認定を左右するに足る証拠はない。しかして以上認定の事実より推するときは本件土地は河野広市及び河野金蔵の農業経営にとり、有益又は便利であるという意味においては必ずしも必要がないとはいえないが、然し又これが無ければその農業経営にとつて支障があるという程の必要性も無いものと認むべきところ、自作農創設特別措置法第十五条第一項第二号の規定は当該宅地がその買収申請人の農業経営にとつて相当の必要性がある場合に限り、初めてこれを許す趣旨(必要性には強弱の段階が考えられるのであるが、各場合における這般の事情に照しこれには自ら相当の限界が在るものと思はれる。)に解するを相当とし本件における如く農業経営上有益又は便利であるというだけでは未だ以て買収を相当とする程の必要性があるものとは認め難いからこのような申請に基いて定められた本件買収計画は結局相当でないものとして許されないといわねばならぬ。

然らば本件買収計画は既にこの点において違法の廉があり、従つて斯る違法の買収計画を容認し原告の訴願を棄却した被告の裁決も亦違法たるを免れないというべきであるから、右買収計画並びに裁決の取消を求める本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 入江啓七郎)

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